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あれこれ書く予定。

「ザ・キンクス」榎本俊二という天才

こんな凄い漫画を描く人だったんだ!?

というのが、榎本俊二先生の新作「ザ・キンクスを呼んだ第一印象でした。

まだ読んでない?

コミックDAYS等で無料で読める分があるので、是非読んでみてください。

ギャグ漫画をベースにしつつも、大胆かつ緻密な画面と、笑っていいんだか何だか良く分からない話運びで、たった10ページ弱のお話しの中に、人間讃歌や家族愛的な何かや日常のちょっとした発見を描き出して、読む前とは全く異なる世界に読者を連れて行く。

これはもはや芸術です。すごい。榎本俊二天才!

「ゴールデンラッキー」のような突き抜けたナンセンスギャグや、「えの素」のような底抜けの下ネタギャグのどちらでもない、新たな榎本俊二先生の世界を是非とも味わっていただきたいと思います。

 

いぬいしょう「People」の素晴らしさを語りたい

2024年2月5日は全国に大雪となりました。

交通機関が麻痺などして大変だったなあ……という思いも冷めやらぬ中、先日発売されたGoodアフタヌーン2024年3月号に、大変な傑作が掲載されていたので、これについて是非語らせてください。

アフタヌーン四季賞2023冬 四季賞受賞作品
いぬいしょう「People」

折しも観測史上稀に見る大雪に見舞われた日の夜、今日も残業で遅くなりそうな気配が漂うオフィスで、母からの交通事故の電話を受けたサラリーマンの柳木。

慌てて自身の通勤用の車(雪国らしく四駆車)で駆けつけたところ、幸い大したことがなかったので送り届けて仕事に戻ろうと焦る中、雪が降りしきる路上で何故かバスを待つ老人を見つけてしまい……。

朝までに片付けなければならない仕事が山程残っているんだ、早く戻らせてくれ!
と切羽詰まる気持ち、現代人なら痛いほどよく分かると思います。

しかし物語は、「行方不明のおじいちゃん」とか「妊婦」とか「子供が生まれそう」とか、絶妙に無視できない事件が折り重なるように立て続けに起こって、主人公を会社に戻してくれないんですね。このクソ忙しいときに!

最初は「俺がでしゃばる必要なかっただろ」とか「おせっかいする義理なんてねえんだから」と思いつつ、これ見送ったらマジのマジで帰る(会社に)! ……と思っている柳木ですが、救急車が来て困らないように雪かきしたりとか、ちゃんと見送ったりとか、結局のところ見捨てることなんてできないんですね。

彼が特別に善人であるとは思いません。困っている人がいたら助ける。誰だってそーする。俺もそーする。要するに普通の人です。

そして普通の人の善意に対して、この作品はちゃんと普通にお礼で報いる。

この描写、当たり前のことのようだけど素晴らしいと思います。

序盤では母親へ「その四駆への信頼は何なん?」とか言って斜に構えたセリフも、

終盤では、陣痛が始まった妊婦を送り届けるために、「大丈夫 この車 四駆だから」と安心させるために使っていたりして、台詞の回収の仕方も素晴らしい。

悲劇は起こりません。結局一晩、会社に戻ることができなかったということを除けば。
あ〜〜あ………仕事どうしようかな……
ってこの気持ち、分かる……。

けどがんばった柳木には、ちゃんと報いがあるんです。
本来の用法である「情はひとのためならず」とは、まさにこのことかなと思います。

ラストについては、是非コミックDaysで読んで確かめてください。
爽やかな読後感。柳木の背中に、ちょっと自分も泣きました。

本当に素晴らしい作品だと思います。ありがとうございます。映画化してほしい。

それにしてもアフタヌーン四季賞は相変わらず凄まじいクオリティの傑作が寄せられますね。

四季賞の受賞者が今のアフタヌーン系作品の打線の主軸を担っていると思うと、このいぬいしょう先生もいずれは……と、今後に期待せざるを得ない!

ちなみに調べてみたところ、講談社の投稿系サイト「DAYSNEO」に2021年、作品を投稿されていました。ここで担当が決まって、一緒に作品を作って、今回の四季賞受賞になったという流れなんですかね。

いぬいしょう「サンブリンガー」

1話読む限り、これめっちゃ面白いんですけど!?

これ続きは……?

ねえ……!

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俺の漫画大賞2023 ノミネート作品

いまさらですが、俺の漫画大賞2023のノミネート作品の一覧です。

ノミネート対象は、例年通り「2023年に1巻が発売された作品」

いずれ劣らぬ傑作ぞろい。

つまり全部1位と言って過言ではないと言わざるを得ないのが現状です。

■矢寺圭太「ずっと青春ぽいですよ」

高校のアイドル研究会部長・山田には野望があった。それは自分たちでアイドルをプロデュースして文化祭でコンサートを成功させること! ずっと一人ぼっちだった山田が新入生という強い味方を得て異様なバイタリティで活動を始める!

かわいい男子・杉森に女装させたり、一度は断ったギャルたちが妙にプロデュースに乗り気になったり、女子同士も意識の違いで片方が劣等感を感じてしまっていたり……と、やってることはボンクラそのものなのに、ハタから見ていると「青春してやがるぜ、こいつら……!」とちょっと羨ましくすらなってしまいます。

 

■和山やま「ファミレス行こ。」

和山やま先生のオフビートで低温な笑い、一度読んだら夢中さ、君も。

映画化もされた「カラオケ行こ!」の続編。大学生になった聡実くんはちょっとしたキッカケからファミレスでバイトを始める。そこにはなぜか毎晩入り浸る漫画家や、喋らないと死ぬんじゃないかというほどよく喋る先輩、そして相変わらず腐れ縁が続いているヤクザの狂児も現れて……。

聡実くんがバイトを続ける理由を軸に、さまざまなキャラたちの群像劇が描かれる、いわゆるグランドホテル形式。意外な人物同士のつながりが明らかになり、次第に転がり始めていく物語がどこに決着するのか目が離せません。

ちなみに映画「カラオケ行こ!」は、原作の要素を膨らませてさらに面白い作品となっているので、原作ファンなら是非ご鑑賞ください。

 

平井大橋「ダイヤモンドの功罪」

ただ友達とスポーツがしたい心優しい少年が、その有り余る才能によって周囲の大人たちを狂わせ、やがて本人の意に反した世界へと足を踏み入れていく、まさに少年のアビス(違う漫画)。

すでにマンガ大賞を受賞するなど数多くの評価を得ているので説明不要かと思いつつ、挙げず居られない面白さ。まだ読んでない? 読んでください。地獄への道は善意によって踏み固められている、という言葉を思い出します。

 

海野つなみ「クロエマ」

洋館に済む謎の美女クロエと、その庭先で勝手に野宿しようとしてとっ捕まったワーキングプアホームレスのエマ。

二人が出会って、成り行きでいっしょに住むことになるものの、特に仲良くなるわけではなく、持ち込まれる不可解な事件も別に解き明かそうとせず、最終的に何も解決しない。書くとワケがわからないかもしれませんが、そういう内容なんだもの……。

作品全体に漂う乾いた笑いと不穏な空気たたまらなく面白いです。作中で語られる現代の世相と容赦ない切り口は、さすが海野つなみ先生。

 

■阿賀沢紅茶「氷の城壁」

2023? と思われるかもしれませんが、2023年に1巻がリリースされたのでノミネート対象とします。もともとタテ読み漫画としてリリースされ、阿賀沢紅茶先生の実力を世に知らしめた名作が、読みやすく入手しやすいコミック版として再出版されたもの。すでに大変に有名ですが、タテ読みはちょっと苦手……という未読の方は是非。

中学時代に人間関係に悩まされ、親友の美姫にしか心を許さなくなっていた小雪。やがて出会ったヨータやミナトらの友人たちと交流を重ねていくうち、次第に自分自身の過去に向かい合うことになり……。

大枠で言えばラブコメ。直球火の玉ストレートなラブコメです。でも、なかなか詳らかにされない(心を閉ざしている表現の一貫でもある)小雪の過去が明らかになっていくにつれ、友達とか恋人とか好きな人とかって何なんだろうね……と一緒になって悩んでしまうかも。

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2024年もどんな傑作に巡り会えるのか楽しみです。

王道少年成長ストーリー「魔々勇々」を応援したい

ここのところ、毎週ジャンプを読むのが楽しみなのです。

なぜなら林快彦「魔々勇々」が掲載されているから。

見てくださいよ掲載開始号の表紙イラスト。一発で魅了されました。
(今んところこんな顔をするシーンは一個もないんだけど……)

王道の少年の成長譚!

圧倒的な画力、個性的なコマ割り、謎の多い世界観、先の読めない展開、魅力的なキャラクター(かわいいヒロイン)!

これを楽しみにせずしてどうするか。次に来るマンガ間違いなし!

……ただ世間的にはあんまりウケてないのか、毎週の掲載位置がドベ付近をウロウロしているので、毎週しこしことアンケートを送り続けています。

しかし一番の応援は単行本を購入すること。

まだ出ないのかいつ出るんだとやきもきしていたところ、ようやく発売されたので全力で購入。

みなさまにも面白さを分かっていただきたく全力で紹介していきたいと思います。

■強くなりたいと願う"勇者"コルレオの王道成長ストーリー

魔王と勇者が一対で存在する世界で、勇者として生まれたのに安穏と暮らす自らの存在意義を見いだせない少年コルレオ。

突如として訪れた異世界の勇者エヴァンに憧れを抱くものの、初めて遭遇する勇者と魔王のリアルな戦いの中で命を落とし、エヴァンの命を代償に復活を遂げ「勇者とは何であるか」を知る。

そして異世界からやってくる謎の存在に母の魔王マママ(このネーミングセンス…)を傷つけられ「強くなりたい」と強く願うようになるのであった。

どうですかこの王道っぷり。

ここんとこジャンプに限らず新しく始まる少年漫画はたいてい「才能/能力を持っているが事情によって隠している/目覚めていない」ばっかりだったので、コルレオの真っ直ぐさは非常にまぶしく映ります(とはいえ最近、「グリーングリーングリーンズ」も始まったので、この路線が増えるのはとてもうれしい)。

ここまでの話は試し読みできるので、まあとりあえず読んでみてくださいよ。

■圧倒的な画力と個性的なコマ割り

単純にめっちゃ絵がうまくて、読んでいて気持ちが良いというのはもちろんあるのですが、さらに、面白いのは非常にアクロバティックなコマ割りを用いるところ。


おわかりいただけるだろうか……?

こういった遊びの入れ方は手塚治虫の「火の鳥」のコマ割りを彷彿とさせますね。
ちょとと読みにくいという意見もあるようで、なんか現行の連載時点ではあまり用いられなくなっている風ではありますが、今後もこの個性は消さないでほしい……。

■かわいいヒロイン

彼女の存在がこのマンガの先々の楽しみを強力に牽引していると言って過言ではないでしょう。剛力の勇者エリシアちゃんです!

しかも彼女に初めて出会ったときのコルレオの反応が最高。

いいキモさだコルレオ! スメルズライクティーンスピリット!

なお彼女、かわいい見た目に反して、いろいろ「重い」ヒロインでもあります。

剛腕の勇者というだけあって、筋肉モリモリなので物理的にも重い(最高)。

そして、忘れちゃいけないのが大アイドル魔王ミネルヴァちゃん。

1巻の終了時点では出たばっかりではありますが、次第に彼女の魅力も爆発します。
今後どうなっていくのか本当に目が離せない…

最新話の段階ではもうひとり、ヒロインが登場していて、ひょっとしてこの路線でずっと行くのか……? いいぞもっとやれ。

今後も目が離せない「魔々勇々」を応援していきましょう。あなたもぜひ!

■林快彦先生は、読み切りもいいぞ!

ちなみに林快彦先生は、かの名作読み切りへのへのもへじと棒人間とパンツ」の作者でもであります。

ジャンプ+読者なら、あああの作者か! と思う方も多いはず。

こっちも超名作なので、是非読んでください。

おすすめ!!

2023年 俺の漫画大賞「スターリングラードの凶賊」

結論から言いますと、2023年の俺の漫画大賞の受賞作は、

速水螺旋人スターリングラードの凶賊」です。

ほかのノミネート作品については後日アップします。ともあれ、スターリングラードの凶賊の面白さを万人に伝えたいという欲求のほうが勝ちました。

■舞台は第二次世界大戦下のソ連スターリングラード

スターリングラードといえば歴史に詳しくない方でも一度は聞いたことがあるでしょう。

第二次世界大戦中、苛烈を極めた独ソ戦の中で、地獄と一言で済ませるのも生温い戦場「スターリングラードの市街戦」の舞台となった街です。

登場人物はドイツとソ連という2頭の巨大な獣同士の戦いの足の指の隙間をちょろちょろと這い回るかのように、しかし強かに生き延びている凶賊たちです。

■騙し合いと裏切りで二転三転する物語

荒野で、ソ連の兵士たちに私的に処刑される寸前の謎のアジア人を、金髪美形の二丁拳銃が救い出すところから転がるように物語は始まります。


どうやら金髪の仲間が手にするはずだった大金の行方を追っている様子。二人はその大金が隠された、すでにドイツ軍に占領されてしまった村にたどり着くものの、アジア人が唐突に「僕は日本の特務将校だ!」とドイツ軍に保護を求め、金髪を裏切ってしまいます。


拘束された金髪を殴り倒しつつドイツ人に接近し、大金の在り処をドイツ軍に伝えるアジア人。やがて発掘した大金をよそに、皇后アレクサンドラの首飾りが発見されるが……

白泉社:速水螺旋人「スターリングラードの凶賊」

ここまでのお話は、上述の白泉社の公式サイトで試し読みできますが、この先の「あっ!?」という展開には驚かされます。

基本的に、登場人物たちの騙し合い・裏切り会いで進行するお話は、目も当てられない残酷な出来事なのに、乾いた笑いを感じさせます。戦争であらゆる感覚が麻痺して白けてしまった雰囲気と相まって、どこかユーモラスに映るのです。

■謎の人物「トーシャ」の魅力

本作の主人公の一人である謎のアジア人・トーシャの、突拍子もない言動と行動は非常に面白いアクセントになっています。第1話で唐突に日本人の特務将校を名乗っただけでなく、その後の話では拘束されて「私はチベット人です」などと言い出す始末。

本名も来歴も年齢も人種も一切不明。そもそも何で独ソ戦下の国境付近をうろついていたのかも分からない。

分かるのは、彼は子どもを殺し合いに参加させるような人物ではないということだけ。

あっちこっちで捕まっては、口先三寸で危機的状況を乗り切るトーシャの弁舌と行動からは目が離せません。

■祖国も大義もなく、しぶとく生き延びる凶賊たち

物語が進むにつれてさまざまなキャラクターが登場し、騙したり裏切ったり、騙されたり裏切られたりしては(色々な意味で)去っていきます。

独ソ戦について歴史の教科書の観点から俯瞰すると、ナチスボリシェビキ、死者数千万人の地獄の戦い、ユダヤ人のホロコーストといった大事件が目に入りますが、本作に登場するような人種も来歴もさまざまな個々人は出てきません。

もちろん本作はフィクションなので、こんな話が実際にあったというわけではないのでしょうが、彼らのような人物はきっと、かの戦争下にもきっとあったのです。

後世の人間である我々はスターリングラードの戦いと独ソ戦の結末を知っていますが、ルスランカと公爵令嬢、そしてトーシャの行く末は知りません。この後にどうやっていくのかまるで分からない、凶賊たちの物語の行く末を見守りたいと思います。

これまでの「俺の漫画大賞」

これまでの流れと記録のために、俺の漫画大賞を振り返ります。

(名称がベストマンガ大賞とか、まんが大賞とか揺れてますが気にしない方向で……)

■選定基準

  • 当該年内に「1巻」が発売されたこと
  • 紙・電書を問わず、まとまった形で出版されていること(WEBのみは対象外)
  • 単話形式の1話も対象とする

■これまでの受賞作品

2022年 毛塚了一郎「音盤紀行」

2021年 かねもと「私の息子が異世界転生したっぽい」

2020年 平庫ワカ「マイ・ブロークン・マリコ

2019年 田島列島「水は海に向かって流れる」

2018年 本田「ほしとんで」

 2017年 大童澄瞳映像研には手を出すな!」

 2016年 赤坂アカかぐや様は告らせたい

2015年 九井諒子ダンジョン飯 / 沙村広明波よ聞いてくれ ※ダブル受賞

2014年 ヤマザキコレ魔法使いの嫁

2022年 俺の漫画大賞ノミネート作品

とあるアラ子「ブスなんて言わないで」

やまじえびね「女の子がいる場所は」

高妍 「緑の歌」

毛塚了一郎「音盤紀行」

眞藤雅興「ルリドラゴン」